目標3の概要
健康は人間の幸福と社会の発展の基盤です。しかし、世界では依然として多くの予防可能な病気で人々が亡くなっています。特に5歳未満の子どもの死亡率(現在でも年間約500万人)と妊産婦の死亡率(年間約30万人)の削減が急務です。
感染症対策も重要な課題です。HIV/エイズ、結核、マラリアといった三大感染症に加え、近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが、医療システムの脆弱性と国際協力の重要性を浮き彫りにしました。同時に、生活習慣病などの非感染性疾患(NCDs)も増加しており、包括的な健康政策が求められています。
健康に関する主要課題
妊産婦・新生児の健康:予防可能な死亡の削減
感染症対策:HIV/エイズ、結核、マラリア、パンデミック対応
非感染性疾患:がん、糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患
精神保健:うつ病、不安障害、自殺予防
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現は、この目標の中核をなします。UHCとは、すべての人が、質の高い保健医療サービスを、必要なときに、経済的な困難なく受けられる状態を指します。日本はUHC達成国のモデルとして、国際社会でその経験を共有しています。
医療サービス
予防、治療、リハビリテーション、緩和ケアを含む包括的な医療サービスを、すべての人が利用できるようにします。
必須医薬品
安全で効果的、質が保証され、手頃な価格の必須医薬品とワクチンへのアクセスを確保します。
財政保護
医療費による家計の経済的困窮を防ぎ、医療アクセスの経済的障壁を取り除きます。
保健人材
十分な数の訓練された保健医療従事者を育成し、適切に配置することで医療の質を確保します。
UHC実現のための3つの要素
UHCを実現するためには、以下の3つの要素をバランスよく拡大する必要があります:
- 対象人口の拡大:カバレッジから取り残されている人々を含める
- サービス範囲の拡大:予防から治療、リハビリまで包括的にカバー
- 費用負担の軽減:自己負担を減らし、財政保護を強化
感染症対策
感染症は依然として世界の健康を脅かす重大な問題です。特に開発途上国では、感染症による死亡が多く、その多くは予防可能な疾患です。COVID-19パンデミックは、感染症の脅威が国境を超えて拡散することを改めて示しました。
三大感染症への対策
HIV/エイズ
年間約65万人が死亡。予防教育、検査・治療の拡大、母子感染防止が重要です。
結核
年間約130万人が死亡。早期診断、適切な治療、薬剤耐性結核への対策が急務です。
マラリア
年間約60万人が死亡。蚊帳の配布、迅速診断、効果的な治療が鍵となります。
新興感染症
COVID-19等の新興感染症に対する監視体制、早期対応能力の強化が重要です。
パンデミック予防・備え・対応(PPR)
COVID-19の経験を踏まえ、将来のパンデミックに備えるための国際的な取り組みが進んでいます:
- グローバルヘルス・アーキテクチャーの強化
- サーベイランス(監視)システムの構築
- 研究開発と製造能力の向上
- 公平なワクチン・治療薬へのアクセス確保
非感染性疾患と精神保健
非感染性疾患(NCDs)は、がん、糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患などを指し、現在では世界の死因の約70%を占めています。これらの疾患の多くは、喫煙、過度の飲酒、不健康な食事、運動不足などの生活習慣と関連しており、予防可能です。
NCDs予防のための「ベスト・バイ」政策
たばこ対策:税率引き上げ、禁煙場所の拡大、包装規制
アルコール対策:価格政策、販売規制、マーケティング規制
食事改善:塩分・糖分・トランス脂肪酸の削減
身体活動:運動促進政策、都市計画での配慮
精神保健の重要性
精神保健への関心も高まっています。うつ病や不安障害などの精神疾患は、世界で3億人以上が抱えており、生産性の低下や自殺のリスク増大など、深刻な社会問題となっています。
うつ病対策
世界最大の疾病負荷の一つ。早期発見、適切な治療、社会復帰支援が重要です。
不安障害
パニック障害、社会不安障害等への理解促進と治療体制の整備が必要です。
自殺予防
年間約80万人が自殺で死亡。包括的な予防戦略と危機介入が急務です。
社会復帰
精神疾患からの回復支援と社会参加促進により、偏見の解消を図ります。
日本の取り組み
日本は世界最高水準の健康指標を達成しており、その経験と技術を国際社会と共有しています。国民皆保険制度、優れた母子保健、高齢者医療の経験は、他国のUHC実現に大きく貢献しています。
国内の成果
- 世界最高水準の平均寿命(男性81.5歳、女性87.6歳)
- 極めて低い妊産婦死亡率(出生10万対2.8)
- 低い乳児死亡率(出生千対1.9)
- 国民皆保険・皆年金制度の運用
国際保健への貢献
UHC推進
G20大阪サミットでUHCを主要議題に掲げ、国際的な取り組みを主導しています。
感染症対策
グローバルファンドへの拠出、AMR対策、パンデミック対応能力強化を支援。
母子保健
母子手帳の普及、栄養改善、予防接種拡大により、母子の健康向上に貢献。
保健システム
保健人材育成、医療機器・技術の移転、保健政策立案支援を実施。
日本の国際保健政策
日本は「人間の安全保障」の理念の下、個人を中心とした包括的な保健協力を展開。特に、アジア・アフリカ地域でのUHC実現と感染症対策に重点を置いています。